「脳を守る細胞」が認知機能低下に関与か、という研究を読んで——弱視の両眼トレーニングにVRゲームを使う話
ScienceDailyで「保護的だと考えられてきた脳細胞が、機能不全に陥ると過剰なミエリンを作り、神経線維を乱して認知機能の低下に関与する可能性がある」という記事を読みました。まだ速報段階の研究ですが、「神経系は入力と使い方で振る舞いを変える」という前提をあらためて意識させられます。
ここからは完全に自分の関心の話です。弱視(amblyopia)の分野では、長く「良い目を隠して悪い目を単独で使わせる」アイパッチが主流でした。ただ近年は、片目を隔離するより両眼を同時に働かせる(ダイコプティック提示)方向の研究が増えています。神経可塑性を「入力の設計」でどこまで引き出せるか、という問いです。
その「両眼同時」の練習を、毎日続けられる形にできないかと考えて作ったのが、Meta Quest用のVRゲーム「AmblyoPunch」です。技術的な設計の要点を書いておきます。
- 提示制御とゲームロジックの分離:ステレオレンダリングの「左右の目に何を、どの強度で出すか」を宣言的に記述し、ゲーム側は当たり判定とスコアだけを担当。ステージごとの提示ルールを差し替えるだけで4段階を実現しています。ロジックを触らずに刺激パラメータを差し替えられるのが、試行錯誤のコストを下げてくれました。
- ゲームループ:ガボールパターン(縞模様)のコインをパンチして得点、赤いトゲをよける(ハート3つ、全損でリスタート)。ワールドは村→街→宇宙→月→火星→金星と進行。刺激を見せながら、注意をゲーム側に向けさせる作りです。
- 4段階の自動モード:単眼ウォームアップ(弱視眼のみ)→抑制解除(利き目を強く暗く)→リバランス(クリアさを段階復元)→融合トレーニング(パナム融像域内のわずかなずれ)。
- パフォーマンスゲート:進行は時間ではなく成績制御。直近10回の結果で概ね70%以上、斜視プロファイルは最終融合前に80%以上。時間で強制進行させないのは、負荷を上げすぎないためです。
- 設定:弱視眼の左右(誤ると効果が逆転)、重症度(軽度/中等度/重度)、斜視タイプ(内斜視/外斜視)。既定は自動モード、専門家向けにカスタムモード。
エンジニア視点で言えば、いちばん難しかったのは「刺激の正確さ」と「遊びとしての手触り」のトレードオフでした。提示条件を厳密にすると退屈になり、ゲームを面白くすると刺激が崩れる。だから提示層を独立させ、ゲーム層から切り離した。これは視覚トレーニングに限らず、継続が前提のあらゆるアプリに通じる設計だと思っています。
正直に書いておくと、これは医療機器でも治療でも治癒でもありません。眼科の先生の指導を置き換えるものでは絶対にありません。あくまで「続けられる練習の入り口」としてのゲームです。
同じようにアイパッチの先の選択肢を探している人、VRで視覚トレーニングを試した人がいたら、実際どうだったか聞いてみたいです。
https://www.meta.com/en-gb/experiences/amblyopunch/1239507485902689/

